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① ビートルズだって解散してしまえば... 「ビートルズのメンバーは元々は5人組だった」という事実を私が初めて知った、その切っ掛けとなったのは、今から35年以上も前の‘74年頃、当時ビートルズ関連の著書の中でもっともその記述内容の信頼性が高いと言われていた邦題を「ビートルズ」という、“Hunter Davies”によって書かれた本の中でだったと思う。 中〜高校生の当時、映画とビートルズにハマッていた私は、本屋が好きだった。特に古本屋は大好きで、休みの日には神田小川町界隈まで足を運んで一日中ぶらついたり、出掛けた先などでも古本屋とか古レコード屋を見つければいつでも何処でも、殆ど必ず覗いて歩いたものだった。なによりも今とは違って、“掘り出し物は、足で探す”時代だったのである。当時は都内の各所に大型の書店チェーンがあるような時代ではなかったし、ましてやパソコンもネットも携帯も無いんだから、当然のことだろう。電車賃や食費まで惜しんで“足で探す根性がない輩”は、同好の仲間内でも「お呼び」でなかった。そしてこの本も、記憶では確か下北沢の古本屋で見つけたんじゃないかと思う。 1970年に、アルバム「Let It Be」発表を最後にグループを解散していたビートルズは、その後味も悪い解散時のゴタゴタのイメージも手伝ってか、「現役時代の神通力」も消え失せてしまった“ただの人”におとしめられ、その後のソロ活動でも当初はグループ当時の“物凄さ”を再現するほどには至っていなかったことも、その事を裏付けているかのようだった。更にはその後続々と輩出され、台頭し始めた新たなグループの登場に、「もはやビートルズの時代は終わった」、「ビートルズはお上品な、お子様向けのロックの入門用」みたいな風潮になりつつあり、まさに“一過性の大ブームもついに終わりを遂げたのだ”、と思わせた。 しかしその現役時代の“大騒ぎ”を体験していない、少し遅れた若い世代は純粋に、時折ラジオなどから流れてきて偶然耳にした“その曲”に心を奪われ、「これって誰のなんて言う曲なの!?」と感激混じりに問うたものだった。 ビートルズの現役時代を共に通り抜けていった若者たちの多くも、それが青春の1ページに過ぎないことだったと解釈して“大人”になり、「卒業していった」ためか、巷の古レコード屋や古本屋には、その遺物をあちこちで見掛けるようになっていった。 話は逸れたが、ビートルズが現役だった時代には商魂たくましく、海外で出版されていたメジャーな本の殆どが和訳されて、国内でも発売されていたのである。しかし、解散後も既に4〜5年が経過したころになると、前述のような世間の風潮も手伝って、それらの本の殆ども近隣の書店からは姿を消していた。 “一体どこから、どうやってでてきたのか?”それが知りたかった。 そして、比較的初めの頃に読んだ中のその1冊である、ハンター・デイヴィスの「ビートルズ」中にあった、“初期メンバーについての件”は非常に心を引かれるものがあり、その関心はその後までずっと消えることなく、永遠に私の中で変わらず生き続けていくことになるのである。 |
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② オリジナル・メンバーは5人いた 当時その内容が最も信頼されたデイヴィスの「ビートルズ」の中でさえ、この件に関しての記述についてはホンのさわり程度でしかなかったので、それは正に“その切っ掛けを与えられた”に過ぎず、その欲求が満たされるのには、この後まだ数年を待たなければならなかった。 “ピート・ベスト”については、当時脱退の理由を「ドラムが下手だったので追い出された」という(余りに当人が傷つくような)ことになっていてそれなりに知られていた話であり、他の3人と一緒に写っている写真も存在し、顔も分かった。しかし“スチュアート・サトクリフ”と呼ばれる人が他のメンバーと一緒に写っているような写真など、当時は見たこともなく、一体どんな人物だったのか、気になって仕方がなかった。 また、その頃もう一つ手元にあった本に、当時のLPレコード並みに値段が高かった為に、買うことにかなりの決心が必要だった「ビートルズ事典」という、比較的新しく「解散後」数年経った頃に出版されたものがあった。その中でも、交友関係の人名録のところに名前は見つけられたものの、“サングラスをかけた顔写真”が白黒で小さく出ていただけであって、これでは人物像は全く掴めなかった。念のため、他のページも確認してみたが、例によってデビュー前の写真と言えば“ピート・ベスト”との4人組時代のものばかりしかなかった。 仕方なく、「年表」の部分に何か当時のインサイド・ストーリーとでもいうべきものでも見つかりはしないかと、デビュー少し前の次期の辺りを見ていたら、そこにビートルズのメンバーが含まれていない、男性二人と女性一人の、3人の人物が写った小さめの白黒の写真が目にとまった。なんだか、ちょっと変わった衣装を着ているようで、一体どういう時のものなのか?少なくとも“ロックバンド”のメンバーのようにはとても見えない人物たちに思えた。 ここに素顔で写っている“スチュ”こそが、あの“スチュアート・サトクリフ”のことであり、この3人はどうやら仲間らしい。しかも、他の2人の名前は、凡そイギリス人らしくは無く、“クラウス”なんていったら、ドイツ人なんだろうという事が想像できた。これでどうやら、この人物たちはデビュー前のビートルズが「ドイツに出稼ぎ」に行っていた時期にハンブルクで知り合った連中なんだということが、何となくわかってきたので、今度はもう一度、その写真の前後のページをよく読んでみることにした。そして、そこから分かったのは、つぎのようなことであった。 他のメンバーとは違って、“スチュアート”はジョンと同い年の、リバプールのアート・スクールでの同級生で、そこではジョンの最初の妻だったシンシアも一緒で3人は友達だったこと。それで「親友」だったジョンのバンドに加わるため、自分の絵が売れて得た収入でベースギターを買って、正式な“ビートルズの初代ベーシスト”となったこと。 これらを知ったことによって、「そんな話があったなんて.....」とそれまで以上に益々“知りたい気持ち”は募るばかりであり、決して満たされて満足するような事にはならなかった。 |
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③ 最初のマネージャー“アラン ウィリアムズ” 更なる情報を求め、例によって書店廻りは欠かさなかったが、当時大方の興味の対象とされていたことは、主にグループのその「解散までの経緯」の方であり、殆どの出版物もそうした興味に答えるような、関係者による所謂「暴露本」的な要素を持ったものが大半を占めていた。要するに、既に失ってしまったカネのなる木を利用して、誰もが最後のもう一稼ぎを目論んでいたのであろう。 満たされない思いを抱えつつも、そのような本を読みながら日々を過ごすうちに時は1976年になり、その私の願いと如何にも合致しているように思えてならない、ある本の出版がアナウンスされた。 その内容は主に、リヴァプールでの無名時代のビートルズとの出会いと関わりからはじまり、リヴァプールの他のバンドたち共々、まだまだ世間知らずな彼らのマネージメントを行って、無名時代の地元でのライブの根回しや、数回に及ぶ例のハンブルクへの出稼ぎの段取りをつけてやったりと、ピート・ベストを含めた5人組時代に何かと面倒を見てやったという、リンゴの加入前までのエピソードが中心になっているものである。 “エプスタイン”登場の少し前に、ビートルズによる“背信行為”とも言える行動によりその関係を壊していた同氏の元に、「ビートルズを良く知る相談相手」として頼る人物ということでエプスタインは現れ、最終的には言葉巧みに、ウィリアムズ自身の口から“もうビートルズとは一緒にやる意志はない”事を語らせた上で、「それなら、あとは僕がやることにするよ…」と宣言するのである。 このような、当時の彼らを直に知る者によって語られたその内容には、流石に他者には知り得ないような小さなエピソードがちりばめられていて、それを知ったことで、何だか“スチュアート”を始めとした彼ら5人に対する親近感がとても増すのを感じたものだった。 特に、著者としてメインの“アラン・ウィリアムズ”は“スチュアート”の芸術的な才能については高く評価していたようで、個人的にも彼のことを取り分け気に入っており、最終的にスチュアートが(既に脱退していた立場であるにも関わらず)、同氏に対する「ビートルズからの決別宣言」のメッセンジャー役を押しつけられてさえ、彼へのその好印象が変わることだけは無かったようであった。 そのため、“スチュアート”に関連した事柄への言及は生前は勿論、その死後にも及び、その死の直後の“アストリッド”の様子や、彼の生前から彼の死後までもリヴァプールで行われた葬儀の場に於いてさえ続いていた、彼女と彼の母親との間の確執などについても触れている。 一方で、同時期のもう一人のメンバーであった“ピート・ベスト”とは、マネージメントの部分以外では殆ど個人的な絡みの無いような、醒めた関係の「付き合いにくい性格の相手だった」としながらも、自らは彼を嫌うような理由もなく、またそのよう振る舞った事もなかったとした上で、それが相手の側の性格的な問題によるものであるように述べているが、それ以上悪く言ったりすることもなかった。従って、絡みの少なかった彼についての記述は、当然のことながらごく僅かである。 この本の登場によって、渇望する気持ちは本当に随分と満たされたように思えたため、暫くの間はこれで満足を得ることが出来た。 それ程、この本のインパクトはこの当時強い物だったのである。 |
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